稲田哲将 研究所

経営改善練習課題:福岡市営渡船の経営を再建する


志賀島航路の出発地、ベイサイドプレイスに貼ってあった貼り紙によると市営渡船の経営状態は、深刻なようだ。

この課題を経営コンサルティングの練習課題として改善方法を考えてみたいと思う。

1. 悪循環の構造
よくある交通機関の悪循環は次のようなものである。

人が利用しない。⇒採算が取れなくなる⇒便数を減らす。⇒人がますます利用しなくなる。

交通の足として利用するには、人が期待する最低限の本数というものがあると思われる。
北海道の周辺地域でも様々な状況を見てきたが、一時間に一本は最低運行していないと定期的な脚としての利用は難しくなる。しかし、空気を運んで赤字を垂れ流すわけにはいかない。

博多=玄海島航路は、一日7往復2~3時間毎
博多=志賀島航路は、一日15往復1~2時間毎
姪浜=能古島航路は、一日23往復30分~1時間毎

2. 志賀島航路の利用減少の原因
2-1道路の利便性の向上
これは最大の理由だと思われる。昔は、3号線の海ノ中道の入り口で大渋滞をしていたが今は、ほとんど渋滞もない。大橋が両側2車線になったのでさらに渋滞は減少するだろう。そうすると、船を使っていたメリットの一つである。速さが失われ、車を利用する人が増えたと思われる。
2-2 ベイサイドまでの交通機関のわかりにくさ。
ベイサイドまでどうやって行けばいいだろうか?スマホがあれば西鉄バスナビで直ぐにわかるようになったが、それでもまだどのバス停に行けば乗れるのか分かりにくい。
わかりにくいということだけで逃しているお客様は多いだろう。
2-3 天神の人の流れの南下
親不孝通りの衰退、三越、LOFTの開業以降明らかに人の中心が南下した。そのためベイサイドの心理的な距離が広がった。90年代半ばは、ちょっと足を延ばす感じだったが、今は決意がいる。
2-4 西方沖地震の後遺症
西方沖地震で1年間一周道路が通れなくなったことによる客離れ、店舗の減少などの後遺症からまだ立ち直っているとは言えない。
2-5 糸島に客を奪われている。
古くからの旅館や飲食店は多いが、糸島的な素敵カフェが少ない。
2-6 遊ぶ場所
西戸崎の近くの海浜公園や水族館は大変魅力的な施設ではあるが、志賀島の港の近くには、砂浜と釣りがしやすい防波堤、少数の商店しかない。また、国民宿舎の近辺は非常に観光価値が高い場所にもかかわらず交通の便が悪いため行きにくい。

■解決案(航路の統合)
まず、費用があまりかからない解決案からスタートしたほうがいいだろう。
「運行本数を減らす」ことと「運行頻度を上げる」という一見矛盾するようなことが可能である。

Aパターン(玄海航路+志賀島航路)
博多港⇒西戸崎⇒志賀島⇒玄海島⇒志賀島⇒西戸崎⇒博多港

Aパターンの航路
Aパターンの航路

Bパターン(志賀島航路+能古島航路と志賀島航路+玄海島航路の二航路)
外回り:博多港⇒西戸崎⇒志賀島⇒能古島⇒博多港
内回り:博多港⇒能古島⇒志賀島⇒西戸崎⇒博多港
玄海島航路:博多港⇒西戸崎⇒志賀島⇒玄海島⇒志賀島⇒西戸崎⇒博多港

Cパターン(玄海航路+志賀島航路+能古島航路)
外回り:博多港⇒西戸崎⇒志賀島⇒玄海島⇒能古島⇒博多港
内回り:博多港⇒能古島⇒玄海島⇒志賀島⇒西戸崎⇒博多港

■まずはAパターンでコスト削減
Aパターンを採用して玄海島航路の船を志賀島航路の港に寄港させた場合、おおざっぱに言って志賀島航路の7往復を減らしてもサービスの質はほとんど変わらない。志賀島までは、志賀島までの乗客+玄海島までの乗客となることで乗船率を上げることができるので現状の志賀島航路の収益性も上がる。

■コストが下がったことが確認できたら増便
現在とほぼ同じコストで志賀島までの便数を3~4便増やすことも可能である。理想は、純粋に志賀島までの便数を7便増やすこと。スタート時点で赤字幅は減少しているので追加のこの投資が呼び水となり、志賀島、玄海航路の搭乗者数が増える可能性がある。
少なくとも志賀島⇒西戸崎⇒博多港間の利用者数が増えれば、全体としての黒字化も見えてくる。
この様に投資として運行本数を増やして成功した事例が、松浦鉄道である。(もちろん様々な工夫をすべて足した結果であり、これだけが赤字解消の原因ではないが、大きな一因である。)
LCCの発展、ジャンボジェットの退役など航空業界の傾向と同様に小型の機材で運行回数を増やす戦略が、利便性の向上をもたらし、ひいては利用客の増加をもたらすのではないだろうか。

■観光の強化(博多湾クルーズは素晴らしい観光資源)
福岡に知人が観光に来た時にどこに連れていくだろうか?
博多湾は歴史的にもまた海上から見た景観的にも大きな観光資源である。志賀島から博多港まで船に乗ってみれば福岡市民でもちょっとした観光気分になれる。(個人的には、博多駅⇒香椎⇒西戸崎駅までJRで行き、西戸崎の港から博多港に帰ってくるルートが好きである。)
また、航路統合により玄海島が志賀島の次の港になることによって玄海島の心理的な距離が縮まり玄海島の観光客の増加にもつながると考えられる。これにBパターンの能古島まで加えることができれば、博多湾の周回コースができ、便数は大幅に増加させることが可能となる。
一周チケットを販売することで周遊性のある観光客が増える可能性がある。観光のために船内の売店自販機の強化なども必要になるかもしれない。

■港の統廃合
この際、姪浜のフェリーターミナルは統廃合することになるだろう。
能古島、小呂島航路が博多港に来るようになれば、博多港の利用者の増加⇒博多港へのバスの増便が可能となる。ここでも利便性向上による相乗効果が期待できる。すなわち運行本数が増える+経路の統一でわかりやすくなる⇒さらに利用者が増える。=ベイサイドプレイスの来客増となる可能性がある。

■考えられる問題:船の大きさと運行の安定性

この案が実現できるかどうかのポイントの一つに船の大きさと運行の安定性がある。
志賀島航路のきんいん1~3号は双胴船になっており、高速性、安定性が高い。
しかし、玄海島航路の船はこれよりも小さいもの(125人乗り)となっている。
玄海島では双胴船が接岸できない可能性がある。
志賀島にも定員100人程度の小型の船も就航しておりこちらであれば、そのまま就航可能と思われます。
能古島航路まで入れる場合は、カーフェリー機能をどうするかが課題となる。

■もう一つの応用例:小呂島-姪浜航路
姪浜-小呂島には、曜日によって一日1便~2便就航している。
この航路も能古島に立ち寄り姪浜⇒能古島⇒小呂島とすることで収益性の改善と増便の両方を実現できる可能性がある。もう一つの方法として博多港⇒志賀島⇒玄海島⇒小呂島という航路も考えられる。

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