自分が大学生の時の自分にとっての最大の発見は、眼鏡を対象として見るときはレンズが見えるが、眼鏡をかけて世界を見るとレンズが見えなくなるということでした。ここではこのことについて議論したいと思います。
私たちは普段、目で見た世界を通して現実を理解していますが、それが唯一の「正しい」現実でしょうか?例えば、顕微鏡で見た微細な世界もまた現実の一部です。では、目で見た世界と顕微鏡で見た世界のどちらが正しいのでしょうか?この問いに答えるためには、媒介、物差し、フィルターという概念を理解することが重要です。これらの概念を通じて、私たちが現実をどのように捉え、理解しているのかを深く掘り下げることができます。
1. 媒介としての目と顕微鏡
媒介(Medium)とは、現実と私たちの意識を繋ぐ橋渡しの役割を持つものです。目と顕微鏡は異なる目的で現実を認識させるための媒介であり、それぞれが独自の情報を意識に届けます。
目という媒介は、私たちが日常生活で必要とする情報(色、形、動きなど)を届けます。この情報は直感的で、私たちの活動に最も適した「現実」の姿を提供してくれます。
一方、顕微鏡という媒介は、目では捉えきれない微細な世界を見せてくれます。細胞や微生物など、科学的な理解が必要な場合には、顕微鏡がより詳細で精密な情報を提供する重要な媒介となります。
これらはどちらも現実を「正しく」伝える媒介ですが、その正しさは状況や目的に依存しています。日常の活動には目が適しており、科学的な探求には顕微鏡が適しているといえます。このことから、現実の認識は何を媒介にするかによって変化し、どちらも状況に応じた「正しさ」を持っているのです。
2. 物差しとしての基準
**物差し(Ruler)**とは、どちらの認識が「正しい」とされるかを判断するための基準です。この物差しが何を測定し、何を基準とするかによって、目で見た世界と顕微鏡で見た世界のどちらが「正しい」とされるかが変わります。
日常生活においては、物差しは使いやすさや直感的な理解を基にしています。この基準では、目で見た情報が「正しい」とされ、私たちが物理的な世界でうまく機能するための基盤となります。
一方、科学的な活動では精度や正確性が重要視され、微細な情報が必要になります。この基準では、顕微鏡で観察された世界が「科学的に正しい」となります。
物差しという概念は、私たちの認識が絶対的なものではなく、状況に応じて相対的に変わることを示しています。その基準をどのように設定するかによって、何が「正しい」かが決まるのです。
3. フィルターとしての情報の選択
**フィルター(Filter)**は、現実から得られる情報を選別し、どの情報を意識に届けるかを決定する役割を持ちます。目と顕微鏡が届ける認識の違いは、このフィルターがどの情報を通すかによって決まります。
目のフィルターは、私たちが日常生活で必要とする情報を通し、細かい微細情報は切り捨てます。これにより、物体の全体像や大まかな特徴が強調され、私たちが行動する際に必要な情報だけが意識に届きます。
一方で、顕微鏡のフィルターは、非常に細かい情報、通常は肉眼では見えない微細な世界を意識に届けます。このフィルターによって選ばれた情報は、科学的な目的には不可欠ですが、日常の生活においてはあまり重要ではありません。
フィルターの役割を考えることで、目と顕微鏡という異なる媒介が、それぞれの状況においてどのように異なる現実を提供しているかが明確になります。
4. 媒介、物差し、フィルターの統合的な理解
これら三つの概念を統合して考えると、目で見た世界と顕微鏡で見た世界のどちらが「正しいか」という問いに対して、どちらも「正しい」という結論に至ります。しかし、その正しさは媒介の特性、物差し(基準)の設定、そしてフィルターの働きに依存していることがわかります。
媒介は現実と意識を繋ぎ、それぞれの状況に応じて異なる現実を届ける橋渡し役です。
物差しは、何を基準に正しさを判断するかを決め、その基準によって「正しさ」が異なります。
フィルターは、現実の中でどの情報が重要かを選別し、私たちの意識に届けます。
こうして、目と顕微鏡はそれぞれ異なる視点を提供し、どちらも異なる意味で「正しい」と言えます。この視点は、現実の多様性と認識の相対性を理解するための重要な哲学的アプローチです。どちらかが「絶対的に正しい」のではなく、目的や文脈に応じて異なる「正しさ」が存在するということを示しています。
5. 媒介を認識する方法
媒介は通常その存在が透明であるため、私たちはその影響に気づきにくいことが重要です。自分が得た認識が媒介によってどのように変換されているか、フィルターによって何をそぎ落とされているか知ることが難しいのです。そこで、媒介を意識的に認識することは、現実の捉え方を深め、より多層的な理解を得るために重要です。以下に、媒介を認識するための具体的な方法を示します。
・メタ認識と自己反省
自分がどのように情報を得ているかを振り返ることが、媒介を認識する第一歩です。視覚や聴覚といった感覚がどのように機能しているのか、意識的に考えることで媒介の限界や特性に気づくことができます。
・異なる視点の体験
顕微鏡や望遠鏡など異なるツールを使用し、普段は見えない現実のレベルを観察することで、普段の媒介の影響に気づくことができます。異なるツールを使用することは、媒介の存在を実感する有効な方法です。
・批判的思考の導入
受け取った情報がどのように編集され、選別されたのかを考えることは、その情報がどのような媒介を通じて届けられたかを理解する手助けとなります。情報源や背景にある編集方針を批判的に考察することも、媒介の影響を認識するために重要です。
・異なる感覚の活用
視覚以外の感覚(例えば聴覚や触覚)を使って現実を捉えることも、特定の媒介が私たちの認識にどのように影響を与えているかを理解するための良い手段です。
6.まとめ
媒介、物差し、フィルターという三つの概念は、私たちが現実をどのように捉え、理解しているかを深く理解するための重要な鍵となります。目で見た世界も顕微鏡で見た世界も、それぞれの媒介を通じて捉えられる異なる側面の現実であり、その正しさは相対的であり、特定の状況や目的に応じて異なる基準によって決まります。
媒介の存在に気づき、その影響を意識することで、私たちは自分自身の認識がどのように構築されているかを理解し、現実をより多面的かつ深く理解することができるようになります。このプロセスは、認識の深化と自己成長につながり、より豊かな世界観を育む助けとなるでしょう。媒介の透明性を克服し、意識的に現実を理解しようとすることが、私たちの視野を広げるための重要なステップとなるのです。